労務のAI活用|何ができて、どこに注意すべきか【活用例と導入の進め方】
生成AIの普及で、労務の業務にもAIを取り入れる会社が増えています。一方で、「どの業務に使えるのか分からない」「個人情報を扱うので不安」という声も多く聞かれます。
この記事では、労務の業務でAIが使える場面と、導入にあたって注意すべき点を解説します。当社がお話を伺った人事労務担当者の実例も紹介します。
労務の業務でAIが注目される理由
労務の業務には、AIと相性のよい特徴があります。
- 文書が多い:就業規則、賃金規程、各種の申請書や通知書など、文章を読み書きする作業が多い
- 照合が多い:勤怠データと申請、人事情報と給与明細など、複数の資料を突き合わせる作業が多い
- 問い合わせが多い:休暇や手当、社会保険などについて、従業員からの同じような質問が繰り返し届く
一方で、労務担当者の人数は限られ、1人で多くの業務を抱えている会社も少なくありません。ヒアリングでも、100名規模の会社の人事労務をほぼ1人で担っている、という方がいました。人手が限られる中で業務の質を保つ手段として、AIへの期待が高まっています。
労務の業務でAIが使える場面
社内の問い合わせ対応
就業規則や社内の規程をAIに読み込ませ、従業員からのよくある質問に答えられるようにします。ヒアリングでも、生成AIのサービスを使って就業規則についての問い合わせに答える仕組みを作った、という労務担当者がいました。担当者は、AIでは答えられない個別の相談に集中できます。
文書の作成
社内への案内文、規程の改定案、手続きの説明資料などの下書きを作ります。法令に関わる内容は、根拠となる一次資料で必ず確認しましょう。
勤怠のチェック
打刻の漏れ、休憩の未取得、申請と打刻の食い違いなどを洗い出します。ヒアリングでは、勤怠のエラーの確認と従業員への問い合わせに、毎月多くの時間をかけている会社が目立ちました。確認の候補をAIで洗い出すだけでも、作業の負担を減らせます。
給与計算の確認
給与計算の結果を、勤怠データや人事情報、変更の一覧、賃金規程と照合し、反映漏れや意図しない変更を見つけます。詳しくは後の章で解説します。
手続き書類のデータ整理
入社・退職の手続きに必要な情報を、届いた書類や申請から整理します。紙で届いた書類の内容を読み取って一覧にするなど、転記の作業を減らせます。
法改正の情報収集
法改正の要点を整理し、自社への影響を洗い出します。AIがまとめた内容は、厚生労働省などの公式の情報で確認しましょう。
労務にAIを使うメリット
- 作業時間の削減:文書の作成やデータの整理、照合の作業を短縮できる
- 確認の質の安定:決まった観点で確認できるため、担当者の経験や体調による確認のばらつきを減らせる
- 属人化の解消:確認の観点や判断の理由を記録として残せるため、引き継ぎがしやすくなる
- 問い合わせ対応の負担軽減:よくある質問への回答を任せ、担当者は個別の相談に集中できる
労務にAIを使うときの注意点
個人情報とセキュリティ
労務の業務は、従業員の個人情報を多く扱います。利用するAIサービスが入力内容を学習に使わない設定になっているか、データがどこに保存されるかを確認しましょう。
ヒアリングでは、会社としてAIのサービスを導入しているものの、情報セキュリティの規程で個人情報の入力が禁止されているため、労務の実務にはほとんど使えていない、という声もありました。AIを労務に活用するには、情報システム部門や経営層と相談し、個人情報を扱えるサービスと運用のルールを決めることが前提になります。
精度と最終確認
AIの出力には誤りが含まれることがあります。ヒアリングでも、AIの判断の精度に不安を感じ、最終的には人による確認が欠かせないという意見で一致していました。業務を受託している方からも「AIの出力は必ず自分で確認し直している」という声がありました。AIは候補を挙げる役割、人は判断する役割と分けて使いましょう。
社内への説明
AIの導入で得られる効果が「作業時間の削減」なら説明しやすい一方、「ミスを防ぐ」「品質を上げる」といった効果は、費用対効果として説明しにくい面があります。ヒアリングでも、品質の向上が主な目的の場合、役員への説明が課題になるという声がありました。過去に起きたミスの対応にかかった時間や、確認作業にかけている時間を数字で示すと、説明がしやすくなります。
使い方の標準化
担当者がそれぞれ我流でAIを使うと、結果がばらつき、引き継ぎもできません。指示の文例や確認の手順を文書にし、チームで共有しましょう。
労務へのAI導入の進め方
- 業務を棚卸しする:毎月の業務を書き出し、時間がかかっている業務と、ミスが起きやすい業務を洗い出す
- AIに任せる範囲を決める:文書の下書き、データの整理、照合など、AIが得意な作業から選ぶ
- 小さく試す:特定の業務や一部の部署で試し、効果と課題を確認する
- ルールを決める:個人情報の扱い、最終確認の担当、記録の残し方を決める
- 効果を測る:作業時間やミスの件数の変化を記録し、対象の業務を広げるかを判断する
汎用の生成AIと、労務向けのツールの使い分け
AIの使い方には、大きく2つの方法があります。
| 方法 | 向いている業務 | 注意点 |
|---|---|---|
| 汎用の生成AI(ChatGPT、Claude、Geminiなど) | 文書の作成、情報の整理、単発の相談 | 使い方が人によってばらつきやすい。個人情報の扱いに注意 |
| 労務向けのツール(AI機能のある労務システム、労務相談のAI、給与計算の確認ツールなど) | 毎月繰り返す業務、決まった観点での確認 | 自社の業務に合うか、既存のシステムと連携できるかを確認する |
単発の業務は汎用の生成AIで、毎月繰り返す業務は専用のツールで、と使い分けると効果的です。
給与計算の確認にAIを活用する
労務の業務の中でも、給与計算の確認はAIの活用効果が大きい領域です。給与計算のミスの多くは、計算式ではなく、入社・昇給・休職などの変更が給与計算に反映されていないことや、その月だけ必要な処理を忘れたことで起きます。こうしたミスは、複数の資料を突き合わせなければ見つかりません。
当社の「knit 給与AIチェック」は、給与計算の結果を、勤怠・従業員情報・人事イベント・社内規程と横断的に照合し、反映漏れや意図しない変更を支給前に検出するサービスです。今お使いの給与計算ソフトはそのままで使えます。
給与計算のミスが起きる原因については「給与計算ミスはなぜ起きる?」、社労士事務所でのAI活用については「社労士×AI|仕事はなくなる?社労士事務所でのAI活用法」で解説しています。
よくある質問
労務の業務は、AIでどこまで自動化できますか?
文書の作成やデータの整理、照合といった作業の部分は、AIで大きく効率化できます。一方で、個別の事情をふまえた判断や、従業員との対話は、引き続き人が担う領域です。
無料の生成AIを労務の業務に使ってもよいですか?
従業員の個人情報を扱う業務には、入力内容が学習に使われない設定や、データの保存場所を確認できるサービスを選びましょう。社内の情報セキュリティの規程も確認してください。
AIを導入すると、労務担当者は不要になりますか?
不要にはなりません。AIが作業を担うことで、労務担当者は従業員の相談対応や、業務の仕組みづくりなど、判断を伴う業務に時間を使えるようになります。
まとめ
- 労務の業務は、文書・照合・問い合わせが多く、AIと相性がよい
- 社内問い合わせ対応、勤怠のチェック、給与計算の確認など、繰り返し発生する業務から活用を始める
- 個人情報の取り扱いと、人による最終確認のルールを決めてから導入する
AIは、労務担当者の代わりではなく、限られた人数で業務の質を保つための道具です。自社の業務に合った使い方から始めましょう。