給与計算業務の効率化|ミスを増やさずに工数を減らす方法【工程別】
給与計算ソフトを入れたのに、給与計算の業務が楽にならない。そう感じている担当者は少なくありません。時間がかかっているのは計算そのものではなく、計算の前後にある作業だからです。
この記事では、当社がお話を伺った20社以上の給与担当者・社労士事務所の実例をもとに、給与計算業務で時間がかかっている工程と、工程ごとの効率化の方法を解説します。効率化の結果としてミスが増えては意味がないため、ミスを増やさずに工数を減らす視点でまとめました。
給与計算業務で、時間がかかっている工程
給与計算業務は、大きく次の工程に分けられます。
- 勤怠の締め(打刻の確認、申請の承認、エラーの修正)
- 変更情報の収集(入社・退職・昇給・手当の変更などを集める)
- データの取り込み(勤怠や変更の情報を給与計算ソフトに入れる)
- 計算(ソフトでの計算、手作業での計算)
- 確認(計算結果のチェック、ダブルチェック)
- 支払いと明細の配布
ヒアリングでは、時間がかかっている工程として、次のような声が多く聞かれました。
- 勤怠の締め:毎月数十件の打刻エラーや申請漏れがあり、従業員や上長への確認と催促に追われる
- データの取り込み:勤怠システムから出力したデータを、給与計算ソフトに取り込める形に変換する作業に、毎月8〜9時間かかっている
- 変更情報の収集:人事システム、ワークフロー、チャット、メールに散らばった変更を集めて一覧にする作業が負担
- 確認:計算結果の確認に、毎月数時間から、複数人で数十時間をかけている
計算そのものはソフトが一瞬で終わらせます。効率化の余地は、その前後の工程にあります。
給与計算業務の効率化が進まない理由
システムが分かれていて、データがつながっていない
人事、勤怠、給与、ワークフローを別々の製品で運用している会社は多く、データを手作業で移す工程が残ります。業務ごとに最適な製品を選んだ結果、システムが分断されている、という声もありました。
例外の処理が多い
日割り計算、休職者の扱い、独自の手当、インセンティブなど、ソフトで自動化しきれない例外の処理は、手作業やExcelで行うことになります。給与計算の業務のうち約3割が例外の処理、という担当者もいました。
手順がマニュアルになっていない
確認の観点や例外の処理の方法が担当者の頭の中にしかないと、業務を分担できず、1人に負担が集中します。
ミスへの不安から、確認が膨らむ
ミスを防ぐために確認の工程を増やした結果、確認に多くの時間がかかっている会社もあります。確認を減らせば効率は上がりますが、ミスが増えるおそれがあります。
工程別の効率化の方法
1. 勤怠の締めを効率化する
- 申請のルールを明確にする:残業や休暇の申請の期限とルールを定め、従業員に周知する
- エラーを早めに見つける:月末にまとめて確認するのではなく、週次などでエラーを確認し、早めに修正を依頼する
- 上長の承認を機能させる:部門の上長に承認の責任を持ってもらい、労務担当者が全件を確認しなくて済むようにする
ヒアリングでは、従業員向けの打刻のマニュアルがなく、例外的な勤怠(中抜けや半休など)の入力方法がばらばらで、修正のやり取りに時間がかかっている例がありました。入力のルールを整えるだけでも、締めの作業は大きく減ります。
2. 変更情報の収集を効率化する
- 申請の窓口を一本化する:住所変更、口座変更、扶養の変更などは、決まったワークフローで受け付け、チャットやメールでの個別の依頼は受けない
- 変更を一覧にまとめる:その月の変更を、従業員ごとに1行の「変更一覧」にまとめ、給与計算の出発点にする
- システム外の支給も申請の対象にする:入社時の一時金や社内の表彰金など、システムの外で決まる支給も、申請のフォームで集める
3. データの取り込みを効率化する
- システム間の連携を使う:勤怠システムと給与計算ソフトの連携の機能があれば活用する
- 変換の手順を固定する:連携ができない場合は、変換の手順をマニュアルにし、Excelのテンプレートを整える
- 手作業での上書きに注意する:一括の取り込みは、意図しない項目まで上書きしてしまうことがある。取り込む項目を絞り、取り込み後に確認する
4. 計算を効率化する
- ソフトの機能と設定を見直す:日割り計算や休職者の扱いなど、ソフトで自動化できる機能を使えていないことがある。ヒアリングでも、ソフトの日割り計算の機能を知らずに、手作業で計算していた例があった
- 規程と設定を合わせる:就業規則や賃金規程の内容と、ソフトの設定が一致しているかを確認する
- 手作業の計算を一覧にする:ソフトで自動化できない計算は、計算方法とあわせて一覧にし、毎月の作業を定型化する
5. 確認を効率化する
確認は、効率化と品質の両立が最も難しい工程です。確認を削るのではなく、確認の方法を変えることで時間を減らします。
- チェックリストを使う:毎回同じ観点で確認できるようにする(「給与計算チェックリスト」)
- 重点的に確認する対象を決める:その月に変更があった従業員や、手作業で計算した項目を重点的に確認する
- 2つの方向から確認する:変更一覧から明細を確かめる確認と、明細の変化から根拠を確かめる確認に分ける(「給与計算のダブルチェックのやり方」)
- 照合をツールで自動化する:人事情報や変更一覧と、給与明細の照合をツールに任せる
6. 支払いと明細の配布を効率化する
給与明細の電子化(Web明細)は、印刷や封入、配布の手間を減らせる、効果の分かりやすい施策です。電子化には、従業員の同意を得るなどの手続きが必要です。
給与計算業務の属人化を解消するには
効率化と同時に取り組みたいのが、属人化の解消です。給与計算の業務が1人に依存していると、その人の不在や退職で業務が止まるリスクがあります。
- 手順をマニュアルにする:月次の作業の流れと、例外の処理の方法を文書にする
- 確認の観点を記録に残す:何をどう確認したのか、どんなミスが見つかったのかを毎月記録する
- 判断の理由を残す:規程に書かれていない運用上の判断は、理由とあわせて記録する
ヒアリングでも、「誰が担当しても同じ結果が出るよう、気をつけるべき項目を細かく言葉にしている」という担当者がいました。マニュアルを一度に完璧に作ろうとせず、毎月の作業の中で少しずつ書き足していくのが現実的です。
外注で効率化できること・できないこと
給与計算を社労士事務所などに外注するのも、効率化の選択肢の一つです。ただし、外注で減らせる作業と、社内に残る作業があります。
| 外注で減らせる作業 | 社内に残る作業 |
|---|---|
| 給与の計算、明細の作成 | 勤怠の締め、変更情報の収集 |
| 社会保険の手続き(委託の範囲による) | 委託先への情報の受け渡し |
| 法改正への対応(委託の範囲による) | 納品された結果の確認 |
ヒアリングでは、給与計算を外注していても、委託先に渡す情報を社内で集める作業は残るため、エラーの可能性や確認の必要はなくならない、という指摘がありました。外注のメリットは、計算そのものの効率化よりも、問い合わせ対応などの周辺業務の削減にある、という声もありました。外注を検討する際は、社内に残る作業を明確にしておきましょう。委託先でのミスへの対応は「社労士に委託した給与計算でミスが起きたら」で解説しています。
効率化で失敗しないためのポイント
- 確認の工程を削らない:効率化で浮いた時間の一部は、確認に残す
- 一度に変えすぎない:システムの入れ替えは、住民税の切り替えや年末調整などの繁忙期を避け、並行運用の期間を設ける
- 効果を数字で測る:工程ごとの作業時間とミスの件数を記録し、効率化の効果を確認する
よくある質問
給与計算業務で最初に効率化すべき工程はどこですか?
まずは、工程ごとにかかっている時間を測ってみましょう。多くの会社では、勤怠の締めと変更情報の収集に時間がかかっています。申請のルールと窓口を整えるだけでも、大きな効果が出ることがあります。
給与計算ソフトを入れ替えれば、効率化できますか?
ソフトの入れ替えで効率化できる部分もありますが、勤怠の締めや変更情報の収集、確認といった前後の工程は残ります。入れ替えの前に、今のソフトの機能を使いこなせているかを確認するのもおすすめです。
効率化するとミスが増えませんか?
確認の工程を削るとミスが増えるおそれがあります。確認を削るのではなく、チェックリストや重点確認、ツールによる照合で、確認の方法を変えることで、ミスを増やさずに時間を減らせます。
まとめ
- 給与計算業務で時間がかかっているのは、計算の前後にある勤怠の締め、変更情報の収集、データの取り込み、確認の工程
- 申請のルールと窓口の一本化、変更一覧の作成、ソフトの機能の見直しで、前後の工程を効率化する
- 確認は削らず、チェックリストや重点確認、ツールによる照合で方法を変える
効率化の目的は、作業を減らすことだけではありません。担当者が1人でミスへの不安を抱えずに済む、安定した給与計算の体制を作ることです。