社労士に委託した給与計算でミスが起きたら|責任の所在と、会社・事務所それぞれの再発防止策
給与計算を社労士事務所に委託すれば、ミスはなくなる。そう考えて委託を始めた会社も多いのではないでしょうか。実際には、委託していても給与計算の間違いは起こります。その多くは、社労士事務所の計算ミスではなく、会社から社労士事務所に渡す情報の段階で起きています。
この記事では、社労士に委託した給与計算でミスが起きる原因と、責任の考え方、発覚したときの対応を解説します。あわせて、会社側と社労士事務所側のそれぞれができる再発防止策も紹介します。
社労士に委託していても、給与計算のミスは起きる
給与計算の委託では、一般的に次のように役割を分担します。
- 会社:勤怠データ、入社・退職・昇給・手当の変更などの情報を集めて、社労士事務所に渡す
- 社労士事務所:受け取った情報をもとに給与を計算し、明細や一覧を納品する
- 会社:納品された内容を確認し、従業員への支払いを行う
社労士事務所は、渡された情報が正しいことを前提に計算します。会社の中で起きた変更が伝わっていなければ、どれほど正確に計算しても、結果は間違ってしまいます。
当社がお話を伺った給与担当者の中にも、「委託先に連携する情報が正しいかを検証する仕組みがなく、発生したタイミングで気をつけるしかない」という方が複数いました。給与計算を委託しても、情報を集めて渡す役割は会社に残るのです。
委託した給与計算でミスが起きる原因
会社から渡す情報の漏れ(最も多い)
- 育児休業の開始の連絡が委託先に届かず、休業中の期間も給与が満額で計算された
- 手当の支給に関する情報が委託先に伝わっておらず、支給が漏れた
- 住所変更や異動の情報が、社内のチャットやメールで止まっていた
ヒアリングでは、給与に影響する変更が毎月十数件発生し、それをExcelにまとめて委託先に送っている会社がありました。変更の情報が社内のあちこちで発生するため、集める段階で漏れが生まれやすくなります。
社労士事務所側の処理のミス
委託先での入力ミスや、修正の反映漏れ、給与計算ソフトの設定の誤りも起こりえます。ヒアリングでも、「委託先で修正漏れが発生することがあるため、社内で数日かけて精査している」という会社がありました。
規程と運用のずれ
就業規則や賃金規程に書かれていない「運用上のルール」が社内にある場合、委託先はその運用を知らないまま計算することになります。規程を改定したのに、最新の規程を委託先に共有していなかった、というケースもあります。
ミスが起きたときの責任の考え方
従業員に対する責任は、会社にある
給与を正しく支払う義務を負うのは、従業員を雇っている会社です。給与計算を委託していても、従業員に対して「委託先のミスなので」と責任を転嫁することはできません。不足分の支払いや従業員への説明は、会社が主体となって行います。
委託先に対しては、契約の内容に沿って協議する
ミスの原因が委託先の処理にあった場合、委託先に対して、再計算の対応や費用の負担を求めることが考えられます。どこまでの責任を負うかは、委託の契約の内容や、ミスの原因によって変わります。まずは契約書で、委託の範囲と責任についての定めを確認しましょう。
損害が大きく、委託先との協議がまとまらない場合は、弁護士への相談も検討してください。
まずは原因を切り分ける
責任の話を進める前に、ミスの原因が「会社から渡した情報」にあったのか、「委託先の処理」にあったのかを切り分けます。原因が分からないまま責任の所在を議論しても、再発防止につながりません。
ミスが発覚したときの対応
- 影響範囲を確認する:誰の、どの月の、どの項目が間違っていたかを、委託先と一緒に確認する
- 原因を切り分ける:渡した情報の漏れか、委託先の処理のミスかを確認する
- 正しい金額を再計算してもらう:社会保険料や税額を含めて、正しい明細を作り直す
- 従業員に説明し、精算する:会社から従業員に説明し、不足分の支払いや過払い分の返還を行う
- 再発防止策を委託先と合意する:情報の渡し方や確認の手順を見直す
従業員への説明や精算の方法、お詫びの文例は「給与計算を間違えたときの会社の対応」で詳しく解説しています。
会社側でできる再発防止策
変更の情報を渡す形と締め日を決める
委託先に渡す変更の情報は、決まったフォーマットの一覧にまとめ、締め日を決めて渡します。チャットやメールで都度伝えると、伝えた・伝えていないの食い違いが起きやすくなります。
渡した一覧と、納品された明細を照合する
委託先に渡した変更の一覧が、納品された明細にすべて反映されているかを社内で確認します。委託先の計算が正しくても、そもそも一覧に漏れがあれば意味がないため、一覧を作る段階での確認も欠かせません。
ヒアリングでは、社内と委託先の両方で給与を計算して突き合わせている会社もありました。ただ、元のデータが同じなら、入力段階の漏れは両方とも見逃してしまいます。二重計算よりも、「変更が漏れなく伝わり、反映されているか」を確かめる確認のほうが効果的です。確認の方法は「給与計算のダブルチェックのやり方」で解説しています。
最新の規程と運用ルールを共有する
就業規則や賃金規程を改定したら、委託先にも速やかに共有します。規程に書かれていない運用上のルールがある場合は、それも文書にして渡しておきましょう。
社労士事務所側でできる再発防止策
給与計算を受託する社労士事務所にとっても、ミスの防止は顧問先との信頼に直結します。ヒアリングで伺った社労士事務所の取り組みから、ポイントを紹介します。
顧問先からの情報の受け取り方を揃える
顧問先から届く変更の情報は、逐次の連絡もあれば月末にまとめて届くこともあり、形式もばらばらになりがちです。ある社労士は「顧問先によって情報の届き方に統一感がなく、担当者が把握していない変更が後から見つかることがある」と話していました。受け取る形式と締め日を顧問先と取り決めておくと、漏れを減らせます。
納品前に、手元の管理データと突き合わせる
計算結果を納品する前に、基本給や手当の変更、社会保険の等級の変更、扶養人数の変動を、事務所で管理しているデータと突き合わせて確認している社労士もいました。労働時間の極端な減少など、勤怠データの異常値にも目を配ることで、顧問先が伝え忘れた変更に気づけることがあります。
確認の手順を事務所内で標準化する
顧問先が増えると、確認の観点が担当者ごとにばらつきやすくなります。顧問先ごとの注意点や変更の記録をテキストで残し、誰が担当しても同じ手順で確認できるようにしておくことが、品質の維持につながります。
よくある質問
社労士の計算ミスで生じた損害は、賠償を求められますか?
委託契約の内容や、ミスの原因、損害の内容によって変わります。まずは契約書で委託の範囲と責任の定めを確認し、委託先と協議しましょう。社労士事務所の中には、賠償責任保険に加入しているところもあります。協議がまとまらない場合は、弁護士に相談してください。
委託先を変えれば、ミスはなくなりますか?
ミスの原因が会社から渡す情報にある場合、委託先を変えても同じミスが起こります。委託先を見直す前に、ミスの原因がどこにあったのかを確認しましょう。
委託していれば、社内での確認は不要ですか?
不要にはなりません。少なくとも、その月の変更が委託先に漏れなく伝わっているか、納品された明細にその変更が反映されているかは、社内で確認しましょう。
まとめ
- 社労士に委託していても、給与計算のミスは起きる。原因の多くは、会社から渡す情報の漏れ
- 従業員に対する支払いの責任は会社にある。委託先とは、原因を切り分けたうえで契約に沿って協議する
- 変更の情報を渡す形を決め、渡した一覧と納品された明細を照合することで、ミスを防ぐ
給与計算の委託は、会社と社労士事務所の共同作業です。情報の渡し方と確認の仕組みを一緒に整えることで、ミスのない給与計算に近づけます。