給与計算で所得税を間違えたときの対応|よくある原因と訂正方法
給与から差し引く源泉所得税は、税額表を使って計算するため、ソフトが自動で計算してくれる会社がほとんどです。それでも所得税の間違いが起きるのは、計算の前提になる情報(扶養の人数や申告書の提出状況、課税される金額)が間違っていることが多いからです。
この記事では、給与計算で所得税を間違えたときの対応を、徴収が不足していた場合と多すぎた場合に分けて解説します。税務の取り扱いは個別の事情で変わることがあるため、判断に迷う場合は税務署や税理士に確認してください。
給与の所得税(源泉所得税)の仕組み
会社は、毎月の給与を支払うときに所得税と復興特別所得税を差し引き(源泉徴収)、原則として翌月10日までに税務署に納付します。従業員が10人未満の会社では、半年分をまとめて納付できる「納期の特例」を受けている場合もあります。
毎月の税額は、国税庁の「給与所得の源泉徴収税額表」を使って、次の情報から求めます。
- 社会保険料などを差し引いた後の給与の金額
- 扶養控除等申告書の提出の有無(提出があれば甲欄、なければ乙欄)
- 扶養親族などの人数
毎月の源泉徴収はあくまで概算で、年末調整で1年間の正しい税額を計算し、過不足を精算する仕組みになっています。
所得税の間違いでよくある原因
扶養の人数が実態と合っていない
家族の就職や収入の増加で扶養から外れたのに、ソフト上の扶養人数がそのまま、というケースです。扶養の変更は年末調整の時期以外にも起きるため、反映が漏れやすくなります。当社がお話を伺った給与担当者の中にも、扶養が外れた後の控除漏れを経験した方がいました。
甲欄と乙欄の区分を間違えている
扶養控除等申告書を提出していない従業員には、税額の高い乙欄を適用します。入社時に申告書の提出を待たずに計算した、副業先として雇っている従業員に甲欄を適用した、といったケースで間違いが起きます。
課税対象の金額を間違えている
通勤手当には非課税の限度額があり、限度額を超える部分は課税対象になります。また、税額表は社会保険料などを差し引いた後の金額で引くため、社会保険料の金額が間違っていると、所得税も連動して間違います。
賞与の税額の計算を間違えている
賞与の源泉所得税は、毎月の給与とは別の表(賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表)を使い、前月の給与の金額などをもとに計算します。前月の給与が通常と大きく違う場合や、前月に給与がない場合など、例外の扱いで間違いが起きやすくなります。
所得税の徴収が不足していた場合の対応
1. 正しい税額を計算し、差額を確定する
どの月の給与で、いくら不足していたのかを計算します。原因が扶養人数などの設定なら、ほかの月やほかの従業員にも同じ間違いがないかを確認します。
2. 従業員に説明し、不足分を徴収する
本人に経緯を説明し、不足分を次の給与から追加で差し引くことを伝えます。金額が大きい場合は、本人の負担に配慮して伝え方を工夫しましょう。
3. 不足分を納付する
源泉所得税は、会社に納付の義務があります。本人からの徴収が遅れていても、会社は不足分を納付する必要があります。
納付が法定納期限に間に合わなかった場合は、不納付加算税と延滞税がかかることがあります。不納付加算税は原則として10%ですが、税務署から告知を受ける前に自主的に納付した場合は5%に軽減されます。さらに、法定納期限から1か月以内に自主的に納付し、過去1年間に期限内に納付していたなど一定の要件を満たせば、課されない場合があります(国税通則法)。気づいた時点で早めに納付することが大切です。
所得税を多く徴収しすぎていた場合の対応
多く徴収しすぎていた場合は、差額を本人に返します。次の給与で返す方法が一般的です。
会社がすでに税務署に納付している場合は、納めすぎた税額をその後の納付額に充てるなどの手続きが必要になる場合があります。手続きの方法は、所轄の税務署に確認しましょう。
年末調整との関係
年の途中の間違いは、年末調整で正しい年税額に精算される
毎月の源泉徴収は概算なので、年の途中の間違いは、年末調整で1年間の正しい税額を計算することで、最終的な過不足が精算されます。ただし、年末調整で精算されるからといって、毎月の徴収や納付の間違いが問題にならないわけではありません。納付が不足していた月については、前の章で説明した加算税の対象になることがあります。
年末調整の後に間違いに気づいた場合
年末調整が終わった後に間違いに気づいた場合は、年末調整をやり直す(再調整する)ことができます。国税庁の案内では、年末調整のやり直しができるのは、源泉徴収票を本人に交付することになっている翌年1月末日までとされています。やり直した場合は、正しい源泉徴収票を本人に渡し直しましょう。
翌年1月末日を過ぎてから間違いに気づいた場合の扱いは、個別の事情によって異なります。本人の確定申告で精算するケースもあるため、税務署や税理士に相談してください。
住民税への影響
年末調整の結果は、市区町村に提出する給与支払報告書にも反映されます。提出後に年末調整をやり直した場合は、給与支払報告書の訂正も必要になります。
所得税の間違いを防ぐには
所得税の間違いの多くは、税額表の引き間違いではなく、計算の前提になる情報の間違いです。次の点を毎月確認しましょう。
- 扶養の変更:扶養の追加や削除があった従業員の扶養人数が、ソフトに反映されているか
- 申告書の提出状況:入社した従業員の扶養控除等申告書を回収し、甲欄・乙欄の区分が正しいか
- 課税対象の金額:通勤手当の非課税限度額や、課税・非課税の区分が正しいか
- 社会保険料:社会保険料の金額が正しいか(所得税の計算の前提になるため)
毎月の確認項目は「給与計算チェックリスト|支給前に確認すべき項目と手順」にまとめています。所得税以外も含めた給与計算ミスの全体像は「給与計算ミスはなぜ起きる?」で解説しています。
よくある質問
従業員が追加の徴収に応じてくれない場合はどうすればよいですか?
源泉所得税の納付義務は会社にあるため、本人からの徴収の有無にかかわらず、会社は不足分を納付する必要があります。本人には、税金は本来本人が負担するものであることと、年末調整で年税額が精算されることを丁寧に説明しましょう。
少額の間違いでも、すぐに訂正すべきですか?
すぐに訂正しましょう。少額でも、原因が設定や運用にあれば、ほかの月やほかの従業員にも影響が広がっている可能性があります。原因を確認したうえで、まとめて訂正します。
過去数年分の間違いが見つかった場合はどうすればよいですか?
年をまたぐ間違いは、年末調整や源泉徴収票、給与支払報告書の訂正が必要になるなど、手続きが複雑になります。早めに税務署や税理士に相談してください。
まとめ
- 所得税の間違いの多くは、扶養の人数や申告書の提出状況など、計算の前提となる情報の間違いで起きる
- 徴収が不足していた場合は、本人から追加で徴収するとともに、会社が不足分を速やかに納付する
- 年末調整の後に気づいた場合は、翌年1月末日までであれば年末調整のやり直しができる
所得税の取り扱いは個別の事情で変わることがあります。判断に迷う場合は、税務署や税理士に確認しましょう。