給与の振込ミス・支払いミスが起きたときの対応|ケース別の対処法と防止策
給与の振込ミスは、給与計算そのものが正しくても起こります。振込データを作る段階、口座情報を登録する段階、振込の手続きをする段階と、給与が従業員の口座に届くまでにはいくつもの工程があり、そのどこかで間違いが入り込むからです。
この記事では、給与の振込ミス・支払いミスが起きたときの対応を、ケース別に解説します。
給与の支払いに関する基本のルール
労働基準法では、賃金の支払いについて5つの原則が定められています。
- 通貨払い:現金で支払う
- 直接払い:労働者本人に支払う
- 全額払い:全額を支払う
- 毎月1回以上払い:毎月1回以上支払う
- 一定期日払い:決まった日に支払う
口座振込は、通貨払いの例外として、労働者の同意を得て、労働者が指定する本人名義の口座に振り込む方法で認められています。振込ミスが起きると、これらの原則のうち「全額払い」や「一定期日払い」「直接払い」が守れなくなるおそれがあります。だからこそ、気づいた時点で速やかに対応することが大切です。
ケース1:振込金額が間違っていた
振込金額の間違いは、多くの場合、給与計算の誤りが原因です。
- 不足していた場合:不足分を速やかに支払います。翌月の給与日を待たずに、臨時で振り込む方法もあります。
- 多すぎた場合:本人に経緯を説明し、返還の方法について同意を得たうえで精算します。会社の判断で翌月の給与から一方的に差し引くことは、全額払いの原則との関係で注意が必要です。
精算の方法や、従業員へのお詫びの文例は「給与計算を間違えたときの会社の対応」で詳しく解説しています。
また、給与計算の結果は正しいのに、振込データの金額だけが違う、というケースもあります。たとえば、振込データを作った後に明細を修正したのに、振込データを作り直していなかった場合です。この場合は、正しい明細と振込額の差額を精算します。
ケース2:振込先の口座が間違っていた
口座の登録ミスや、口座変更の反映漏れにより、本人の口座以外に振り込んでしまうケースです。
本人に、改めて給与を支払う
まず、本人に連絡し、正しい口座に給与を振り込みます。誤った口座に振り込んだとしても、本人に給与を支払ったことにはならないため、会社は改めて支払う必要があります。
誤って振り込んだお金を取り戻す
誤って振り込んだお金は、振込を依頼した銀行に「組戻し」を依頼して取り戻します。組戻しは、振込を取り消して資金を返してもらう手続きです。
- 組戻しには、受取人(誤って振り込んだ先の口座の名義人)の承諾が必要です
- 組戻しには手数料がかかるのが一般的です
- 受取人の承諾が得られない場合は、受取人に直接返還を求めることになります
誤った振込先が退職した従業員の旧口座や、すでに解約された口座の場合は、振込自体が戻ってくることもあります。まずは銀行に状況を確認しましょう。
口座の登録ミスが起きやすい場面
口座の登録ミスは、次のような場面で起きやすくなります。
- 入社時に、手書きの書類から口座番号を転記した
- 口座変更の連絡が、チャットやメールで個別に届き、登録を忘れた
- 人事システムと給与計算ソフトの口座情報が一致していない
当社がお話を伺った給与担当者の中にも、口座情報の登録ミスや、チャットで届く口座変更の連絡の管理に苦労している方がいました。
ケース3:二重に振り込んでしまった
同じ振込データを2回送信してしまうなどして、給与を二重に振り込んでしまうケースです。
まず銀行に連絡し、まだ取り消しができる段階かを確認します。振込が完了している場合は、従業員本人に経緯を説明し、二重に振り込んだ分の返還をお願いします。本人の口座に振り込まれているため、本人の同意を得たうえで、返還の方法(振込で返してもらうか、翌月以降の給与で調整するか)を決めましょう。
ケース4:振込が遅れた・漏れていた
振込の手続きが支払日に間に合わなかった、一部の従業員の振込が漏れていた、というケースです。
- 気づいた時点で、速やかに振り込みます
- 対象の従業員に、遅れたことのお詫びと、振込の予定日を伝えます
- 支払いが遅れた賃金には、遅延損害金が発生する場合があります
振込の遅れは、従業員の生活(家賃やローンの引き落としなど)に直接影響します。遅れが分かった時点で、できるだけ早く連絡しましょう。
金融機関の締め切り時間や、休日の扱いにも注意が必要です。支払日が休日にあたる場合の扱いは、就業規則や賃金規程の定めに従います。
振込ミスに気づいたときの共通の対応
どのケースでも、次の順番で対応します。
- 事実を確認する:誰に、いくら、どの口座に振り込んだのかを、振込データと銀行の記録で確認する
- 影響範囲を確定する:ほかの従業員にも同じミスがないかを確認する
- 本人に連絡する:経緯とお詫び、今後の対応(再振込や返還のお願い)を伝える
- 精算する:不足分の支払い、過払い分の返還、組戻しなどを行う
- 原因を記録する:どの工程で間違いが入ったのかを記録し、確認の手順を追加する
振込ミスを防ぐ方法
振込データの合計と給与台帳の合計を突き合わせる
振込データを作った後、振込額の合計が給与台帳の差引支給額の合計と一致しているかを確認します。件数も合わせて確認すると、振込の漏れや重複に気づけます。
振込データを作った後の修正を管理する
明細を修正したら、振込データも作り直すルールにします。振込データの作成は、給与の確定後に行うのが基本です。
口座変更の申請を一本化する
口座変更は、決まった申請フォームやワークフローで受け付け、チャットやメールでの個別の依頼は受けないようにします。申請の内容と、給与計算ソフトに登録した口座情報を照合しましょう。
振込の手続きを2人で確認する
振込データの作成と、銀行での振込の承認を別の人が行うと、二重送信や金額の誤りに気づきやすくなります。
給与計算の段階で、明細の誤りを見つける
振込ミスの多くは、給与計算の誤りから始まります。振込の前に明細の誤りを見つけることが、最も効果的な防止策です。確認すべき項目は「給与計算チェックリスト|支給前に確認すべき項目と手順」にまとめています。
よくある質問
誤って振り込んだ先が、組戻しに応じてくれない場合は?
組戻しは受取人の承諾が必要なため、承諾が得られない場合は銀行の手続きでは取り戻せません。受取人に直接返還を求めることになります。対応が難しい場合は、弁護士に相談しましょう。
振込手数料を給与から差し引いてもよいですか?
給与の振込手数料を従業員の給与から差し引くことは、全額払いの原則に反するおそれがあります。振込手数料は会社が負担するのが一般的です。
支払日に振り込めなかった場合、法律違反になりますか?
賃金は毎月一定の期日に支払うことが原則とされているため、支払日に支払えなかった場合は、この原則に反するおそれがあります。遅れが分かった時点で速やかに支払い、本人に説明しましょう。
まとめ
- 給与の振込ミスは、金額の誤り、振込先の誤り、二重振込、振込の遅れなどに分けて対応する
- 振込先を誤った場合は、本人に改めて支払ったうえで、組戻しで資金を取り戻す
- 振込データと給与台帳の突き合わせ、口座変更の申請の一本化で、振込ミスを防ぐ
給与の振込ミスは、気づいた時点での速やかな連絡と精算が何より大切です。振込の前の確認を手順に組み込み、ミスを未然に防ぎましょう。